小夜嵐

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ほっとけ 33 


 薫が佐々木を連れて出て行ってしまうと、恭二はさっそく仕事にかかった。
 ぐったりした山本をソファに横たえると、ノートパソコンを起動させる。設定を確認して、会社のパソコンとつながっていることを確認すると、伝票の整理を始めた。本日発送分をまとめると、プリンタへ出力する。これで、薫や佐々木が会社に着くまでに印刷ができているはずだ。
 恭二の主な仕事はネット販売の管理なので、日にもよるが、物理的な雑用を除くとそれほど時間はとられない。午前中の仕事を手早く片付けてしまうと、山本に視線を戻す。
 相変わらずソファで伸びているのを気遣いながら、恭二は玄関の荷物を確認しに行った。そこには二つの大振りなバッグがどでんと置かれてあった。恭二の荷物は自分で荷作りしたものだが、山本のバッグは、恭二が彼を簀巻きに仕上げて車に積んでいる間に、佐々木が作ったものだ。
 今朝の出来事を重苦しく胸に感じながら、恭二は荷物をそれぞれ別の部屋に移した。
 二階に涼しげな一室を見つけたので、そこを山本に。その向かいの部屋を自分へと割り当てると、一階のリビングへと戻る。
 扉を開けると、山本がかろうじて人間らしさを取り戻しつつあった。つまり、ソファに座って冷たくなったコーヒーをすすっていた。
「先輩、もう大丈夫ですか?」
「……ああ……ダメージはでかかったが、はっきり言ってもらっていっそすっきりしたよ」
 コーヒーカップの底に地獄を見つけたまなざしで、山本は何かを悟ったようにつぶやいた。恭二はソファの横に正座すると、改めて山本に向かって頭を下げた。
「……このたびは、うちの上司ともども数限りない失礼と迷惑をおかけしてしまって……申し訳ありません……」
「気にしないでくれ。お前にそこまでされると俺としても立つ瀬がない」
「でも」
「薫さんていったっけ、お前の上司」
「はい」
「あの人、無茶苦茶だけど、一応、俺の恩人ってことになるのかな?」
 そう言われて、恭二は思わず首をかしげた。
「……だとしても……かなり、すれすれだと思いますが……」
「まあ、それはそうだな」
 思わず二人して笑うが、どこかほろ苦い。
「なんにしても、会社に言い訳してもらって、一応ちゃんとした休みがとれたみたいだし、なんていうか……」
 山本は言葉を探してしばらく黙ったあと、恭二に向かって確認するように言った。
「ダメ人間の坂を転がり落ちているところを、かろうじてストッパーをしてもらった、ていう気持ちになってきた」
「先輩……ポジティブな先輩が戻ってきた!」
 思わず喜びに満ちて明るさを振りまく恭二を、照れくさそうに、
「おいおい、よせよ、そんな」
「すごいです、先輩! 誘拐されて、半ば拉致監禁の様相のこの状況で、そこまで冷静に前向きでいられるなんて! それでこそ先輩です!」
「……それは、褒めてるのか? 喜んでいいのか、俺は?」
「褒めてるっていうか、称えてます。さすが先輩です!」
 山本は、何かをのみ込んだ、複雑な表情で、
「……そうか、ありがとう」
 と言った。



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