小夜嵐

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ほっとけ 22 


 雅彦が潰れたのは、山本が討ち死にしてしばらく後のことだった。
 ぐおおおおお(四秒無音)ごおおおおおお(三秒無音)ずおおおおおお(五秒無音)。
 豪快ないびきを聞きながら、恭二は部屋中に散らばる空き缶を「燃やさないごみの袋」へと片付けていく。山本はというと、奇妙なほどに静かだ。もしや急性アルコール中毒でもおこしているのではないかと心配して容体をうかがうが、かすかに呼吸はしている。これを安らかな寝息ととってもいいのだろうか、と判断を迷う。とりあえず額に濡れティッシュを貼り付ける恭二だった。
 真夜中に、炭酸カルシウム入りの固い透明ゴミ袋をカシャカシャいわせて掃除をしながら、恭二はやるせなさを持て余していた。部屋の真ん中には大の男二人が酔いつぶれ、仏壇にはおっさんが神色自若と納まっている。
 あまった食材をゴミと分別しながらローテーブルの片隅に積み上げる。ふいにアボガドがごろりと転がり出てきて、緑の色彩につかの間安らぎを感じたものの、ごってりした質感に状況の猥雑さが倍増して思われて、そっと手に取るとその清潔な冷たさをすぐさま手放したくなった。
 部屋のあちこちにできた酒溜りをティッシュで拭き取る。空き缶や酒瓶を入れていた「燃やさないごみの袋」は、全部片付けないうちに買い置きが底をついてしまった。
 もうやめて寝てしまおうかと思うが、ゴミであふれた部屋で雑魚寝できるほどには、まだ酔っていない。暫定処置として、スーパーのビニール袋に入れておくことにした。
「これこのまま出しちゃだめなのかなあ」
 酒臭いビニール袋を前にして、しばらく考え込むが、わからないので考えるのをやめた。袋に入りきらなかったビール缶を、ゴミ袋の周りに積んでいく作業にしばし没頭する。やがて空き缶は塀のようにゴミ袋を囲うまでになった。
「ふう。やったあ」
 達成感の後に底抜けのまぬけな気持ちがやってくる。恭二は先ほどよりもちょっとだけかなしみを深めながら、本格的に落ち込む前に、とシャワーを浴びることにした。
 汗と酒を流したらいくぶん気分もさっぱりする。
 恭二は冷蔵庫から冷たいオレンジジュースを出すと、口に含みながら窓を開けた。夏の生ぬるい、アスファルトのにおいを含んだ夜気が吹き込んでくる。それでも、室内に蔓延したアルコール臭にくらべたらずいぶんマシだ。空気が入れ替わるまで開けておこうと、網戸にしておく。
「さて、もう寝ようかな……あれ?」
 さっきからやけに静かだと思ったら、雅彦がいない。帰ってくれたのかな、と期待をこめて玄関を見ると、まだ靴がある。靴を履かずに帰ったのかも、と一瞬心配するが、それは杞憂に終わった。
「ぐおおおおおおお」
 振り向くと、いつの間に移動したのか、恭二のベッドに雅彦が埋もれている。
「ずおおおおおおお」
 ぷしゅー、という雅彦の吐く息と共に、恭二の中の何かもが抜けていったような気がした。
「元気出せ」
 誰かが声をかけてくれたが、返事もできずに、恭二は床に伏せたまま、ただひたすら、まぶたを強く閉じるのであった。


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