小夜嵐

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ほっとけ 18 


 まてりあに着くと、佐々木がラッピング用の紙をしゃっしゃと折り曲げていた。いつもながら無駄のない手つきである。
「どうしたの? 疲れた顔して。ていうか、今日休むんじゃなかったの?」
「ちょっと……いろいろありまして……ありすぎまして……」
 汗の染み込んだ鞄を自分の机に置く。全力疾走の後で、力が抜けているせいか、いつもより重い音が響いて小心な心臓がびくりと跳ねる。
「何かあったら言ってね。相談くらいにはのるからね」
「ありがとうございます……」
 先日から超常識的な状況に振り回されている恭二には、佐々木の常識的なやさしさが身にしみた。人に必要なものとは、ちょっとした気配りや他人を気遣うやさしさで、そういう小さなことが積み重なってこそ世間は健全に回るのではないだろうか、そういうものだけで回ってほしいなあ、と恭二は今このときに切望する。
 そして、毎日の決まった手順というのもまた、健全な生活にはなくてはならないものである。恭二は型どおりの仕事がわりと好きだ。さくさく片付けていると、さっぱりした気分にすらなる。
 しかし本日は、こまごました雑用を片付ける合間にも、いつ雅彦が追いかけてくるかと気が気ではなかった。振り切るようにして出てきたものの、雅彦が諦めておとなしく帰ってくれるという保証は何もないのだ。おのずと出入り口付近の物音に敏感になってしまう。
 ここには佐々木もいることだし、雅彦は傍若無人な性質ではない、むしろあれで人目を気にするタイプだ。だから、二人きりにならず、なるべく人目の多いところを選んで行動すればなんとかなるかもしれない。
 恭二はルーティンワークの最中に訪れる無我の境地の中でそのように考えをまとめた。まるでストーカーに悩まされているようだ。雅彦が求めているものが恭二自身でなくアイデアでまだよかったかもしれない。
 恭二はいいこと探しに余念がなかった。
「坂上くーん」
「はいっ!」
 集中を妨げられて、思わず甲高い声が出てしまった。
「もうすぐお昼だけど、今日はどうする?」
「え、もうそんな時間ですか」
「今日はすごく熱心だねえ」
「それは、部長が」
 いるせいなのか、いないせいなのか。
 一瞬どっちだろう、と考え込んでしまう恭二だったが、佐々木はいない方に早合点をしたようだ。
「雅彦さんねえ、悪い人じゃないんだけど、いるとちょっと仕事しづらいよね」
「佐々木さんもですか?」
「そりゃあ、何か威圧感っていうのかなあ、座ってるだけなんだけど、何か集中できないっていうか……ラッピングのキレもちょっと鈍るね」
「いつも通りの早業に見えましたけど」
「うんにゃ、いつもなら八秒で二個できるところが一個半だったり」
「そこまで計算してるんですか……ていうかあまり変わらないじゃないですか」
「積み重なると結構違うのよ。数をこなせば坂上くんにもわかるようになるわよ」
「そんな熟練の業は、俺にはちょっと、無理じゃないかと」
 話しながらなにやら熱心に見ていた佐々木だったが、ふと恭二と目を合わせると、
「決めた。今日はホットハムエッグサンドにする」
 と宣言して見ていたものを掲げた。近所にあるデリバリーサンドイッチ店のメニュー表であった。
「あ、いいなあ。俺も今日はサンドイッチにしようかな」
「なんにする?」
 佐々木が見終わったメニューを渡してくれる。
 冷たいシャキシャキレタスサンドがおいしそうだ。ふわふわタマゴハムサンドも捨てがたい。だがやはり、気合を入れるにはカツサンドだろう。
「よし、ザクザクカツサンドにします」
「おー、豪勢だねえ」
「力をつけないと。そして勝つ! 勝ちます!」
 あのおっさん、もとい超常現象に。そして部長、もとい雅彦に。
「夏バテでもしてるの?」
 不思議そうに小首を傾げながら、佐々木はサンドイッチ店に注文の電話をかけた。


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