小夜嵐

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ほっとけ 14 


 合鍵で山本の部屋のドアを開けようとして、もう開いていることに気づく。荷物を抱えなおしながら部屋に入ると、山本がぐったりとソファに倒れこんでいた。
「おつかれさまです」
「おう、疲れたぞう」
「酒買って来ましたよ。ビールと焼酎と日本酒、どれにします? つまみは柿ピーとするめにサラミとベーコンとお菓子適当、あと弁当があります」
「お前気が利きすぎ。とりあえずビールな」
「はぁい、ア・ナ・タ」
 棒読みで返事をする。やめろよと気持ち悪そうに笑いながら山本はビールを受け取った。猫のように目を細めてうまそうに喉を鳴らす。
「あー、うめ」
 菓子の袋を手繰り寄せて勢いよく開く。
「それで、お前のおばさんどうだった?」
「大笑いされました」
「なんだそりゃ」
 あらましを話すと「肝が太いなあ」という感想が返ってくる。
「とにかく、見えてないことは確かでした」
「仏壇、他の場所に移すとか、そういう案は出なかったのか」
「あ」
「……抜けてるなあ。はぐらかされたのか?」
「……おばさんは作り天然なんです」
「一筋縄じゃいかない相手か」
「俺の部屋以外預ける先がないって言ってましたしね……」
「うーん。もうこうなったら、あれだな」
「あれとは?」
「共存」
「……そうきましたか」
 山本は意味深長にうなずいた。
「吉岡さんも、ずっと同居つーか、一緒に暮らしてたんだし、害はないんだろ?」
「無害ですねえ」
 特に何をするでもない。まず、動かない。留守中に保存食を食い荒らすとか、いたずらをするなどということもない。今のところ、これといって祟られているような気もしない。何らかの悪意を持っているとも思えない。幽霊の置物があったら、あんな感じなのだろう。しゃべるけど。
 存在している、という、ただそれだけの存在だ。
 害があるとすれば……強いていうなら、狭い空間でかけられるプレッシャーだろうか。これは体感するほどに鬱陶しい。
「まあ、考えなかったわけじゃないんですが」
「へえ」
「おばさん家の改築がすむまでなわけだし」
「うん、うん」
「今までああだったなら、俺が勝手にお祓いするっていうのも、憚られる気がするし」
「律儀だよなあ」
「先祖代々受け継がれてきた仏壇っていうことなんで……ずっとおっさん入りで受け継がれてきたんだったら、わざわざ祓ったりしたら、却って呪われそうで」
「あー。そういう考え方もあるか」
「まず、あのおっさんの素性がわからないことには、どうにも」
「うーん。難しいなあ。霊媒師とか探してくるか?」
「本物の霊媒師にならお願いしたいですが、ニセモノ以外を引きあてられっこありません。金だけ取られて気休めをもらうのは嫌です」
「リアリスト!」
 山本はビールの残りを飲み干して、軽い音を立てて缶をテーブルに転がした。チップスの袋を三枚開きにして一つ二つつまむ。
「じゃあ、どうするよ?」
 恭二はからあげ弁当にかけられたビニールを剥がすのに苦戦していた。
「やっぱ、共存ですかね」
「お前さあ」
「はあ」
「意外と、順応性高いよな」
「先輩に言われたくありません」
 やっと剥がれたビニールに付属していた割り箸を割り、おかずを口に入れる。からあげは冷えていても美味しかった。
「あと今夜だけ泊めてください。心の準備して、明日から共存の道を模索してみます」
「泊めるのはいいけどよ、本当に大丈夫か?」
 言いだしっぺのくせに、山本が心配そうな顔になった。二本目のビールを開けながら、
「別に、仏壇返すまで泊まってもいいんだぞ」
「そう何週間もお邪魔するわけにもいかないですよ」
「邪魔にはしてねえだろ」
「先輩と吉岡さんの邪魔になるんじゃないかと、後輩としては心苦しくてなりません」
 山本がビールを気管につまらせた。むせている間に、恭二は好き勝手なことを言う。
「先輩ってやっぱり純情ですよね。わあ、真っ赤だ」
「ごほっ……てめ」
「あ、合鍵返しますね。今度渡す相手は、吉岡さんになるんだろうなあ」
 合鍵をうやうやしくテーブルに置くと、山本が未だむせながらヘッドロックをかけてきた。よけようとして倒れこんだ恭二は電気あんまをかけられて謝罪と許しを請う羽目になったのだった。


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