小夜嵐

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鰐と乾物屋 40 

 買ったばかりの煙草の袋を手に持って、ときどき眺めながら、のんびり歩を進める。
 村山さんが行方不明だというのに、ちょっとのんきすぎるかな、と思わなくもない。だが、大人が自分の意思で姿を消したのだし、それほど心配することもないだろう。
 たぶん、どこかで気分転換でもしているのだ。
 ぶらぶら歩くうち、あちこちのわき道にぽつりぽつりと店らしい建物が見えるようになった。パン屋らしき店、総菜屋らしき店、さまざまだ。ひとつ共通している点は、それぞれが意趣を凝らした、というか、趣味に走った形をしていることだ。どれひとつとして似たような建物は存在しない。
 見ごたえがあるので、足を止めて眺めてしまう。
 残念だが、いちいち入店してひやかすほどの時間はさすがにないので、そぞろ歩きをしていたのだが、数店をやり過ごしたとき、もしかしたらどれかの店に村山さんがいるかも、という可能性に思い当たった。
 しまった、ひとつひとつに当たって、行方を聞くべきだったか。
 村山さんを探す、という目的を優先し、楽しそうな店に禁欲的になるあまり、手段を狭めてしまった。我ながらうかつだ。
 いったん戻って最初の店から当たってみようかな、と考え込んでいると、甲高い大きな声に呼ばれてしまった。
「おや、メグじゃないか。どうしてこんなとこにいるんだい」
 声の主を探すと、ちょっと行った道の傍に小ぢんまりしたあんみつ屋があり、店先にしつらえてある腰掛の上に、ちんまりした市松人形がいた。
「店長」
 わたしはちょっと小走りになって近くへ行った。気づけば、なんだか道なりの下草の背が高くなったようだ。それに、ちんまりした店長が、なんだかいつもより大きい。近づくに従って、大きさも増していくようだ。
「あれ? 店長、背、伸びました?」
「あんたが縮んだんだよ。まあ、ちょっと見ない間に丸っこくなっちまって。いいからここに座んな。あんみつでも奢るよ」
 店長はニヤニヤしながら、「あんみつひとつ追加だよ」と奥へと注文を飛ばした。
 不審に思いながらも、店長の隣に軽やかに腰掛ける。なんだか体が軽い。手元でカサリと音がして、煙草の存在を思い出す。
「あ、そうだ。店長、これ、お土産です」
「おや、気が利くねえ。なんだい?」
「煙草です。キセル使ってらっしゃったので」
 店長に向かって、煙草の包みを差し出す。
「あれ?」
 包みを持った手が、いつもとは違うように見える。店長がその手から包みを取り去った。さっそく中を改めて、嬉しげににっこりしてくれる。
「なかなかいい品じゃないか。後でやらせてもらうよ」
「はあ、喜んでもらえて、良かったです」
 受け答えが上の空になってしまう。手を握ったり開いたりしてみるが、やはりわたしの手のようだ。店長が笑いを噛み殺しているのが気配でわかった。
 両手を合わせて揉み合わせてみた。むにむにした感触が両手のひらに伝わる。
「イリュージョンですか?」
「それが現実ってもんだよ」
 わたしの手のひらには、どこかで見たような肉球が張り付いていた。


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