寺田和也は絶句した。
その後、声帯を励ましながら母祥子に問うた。
「これはなんですか」
そこにはダンボールに入った少女がいた。
美少女といっていい外見をしているが、いかんせんメイド服を着ており、一般的な男子高生から見ればドン引きの対象である。少女はなぜか体育座りをして、かろうじてその小柄な体が入るくらいのみかんの箱に入っていた。神妙な顔をしてまわりを見回している。
「なにって、かわいいでしょー? 拾っちゃった」
「拾ったって……猫じゃあるまいし、いいかげんなこと言うな」
「ほんとだもん。道端でミーミー鳴いてたのよっ! かわいそうだから拾っちゃった」
「だから、拾うなっつってんだろこの馬鹿親っ」
「ひ、ひどいっ。そんな言い方ないじゃないっ。そこまで誰が大きくしてあげたと思ってるのっ!」
母と息子が骨肉の争いを繰り広げる中、少女は自己紹介を始めた。
「わたくしはガイノイド、愛称をアイリーンと申します。以後ご厄介になりますのでどうぞよろしく」
ぴたりと口を閉じたのは母子共だったが、再び口を開いたのは母のほうが早かった。
「あらっ、アイリーンちゃんていうのねっ。かわいい名前。こちらこそよろしくぅ」
「よろしくじゃないだろ、ガイノイドって何だよ。以後ご厄介ってなんなんだよ」
祥子はできの悪い息子を見る目をした。
得意気に説明をしてくれる。
「ガイノイドっていったら、人型ロボットのことじゃない。俗にいうアンドロイドねっ。その中でも女性の形をしたものをガイノイドっていうのよ。一般常識くらいわきまえなさい、情けない」
「それ一般常識じゃないだろ。オタクの常識かもしれないけど知らなくても生きていける情報は一般的じゃないだろ。それ以前に一般常識とかいう問題じゃないって。大体どこがロボットなんだよ。ちょっと危ない人間の女の子かもしれないじゃないか。ていうかそうだろ。警察に電話しないと……」
「あら、だってここにスイッチがあるもの」
祥子はそう言いながらアイリーンの右耳の後ろを探った。
するとパソコンを終了したときのような音がかすかに聞こえ、アイリーンは玄関に箱ごとのっしりと横たわった。
「おいおい、そんな演技に付き合うことないぞ」
和也が苦笑しながらほっそりした肩を揺さぶるが、ぴくりとも動かない。ふざけた気分のまま脈を取ってみるが、そんなものはなかった。見事に停止している。
だらだらと嫌な汗を流す和也に、祥子は「ダメな子ねえ」と言い放ってもう一度スイッチを押した。「みー」とか「ちー」とか「フイーン」とかいう音が聞こえてきて、アイリーンが無造作に起き上がる。倒れてしまったみかん箱を元通りにすると、そのまま何事もなかったかのように体育座りをしてその中に納まった。和也は目の前で起きたことを理解しきれず、呆然と床にへたりこんだ。
祥子が明るく言う。
「アイリーンちゃんたら。もうそこから出てきてもいいのよ。おねーさんが拾ってあげましたからねー」
アイリーンをなだめながら立ち上がらせ、和気藹々と居間へ入っていく彼女たちの後ろで、和也は「ありえねえ……!」と呟きながら玄関の床を叩き続けた。
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